1930年代を中心に、写真技術の進化とともに「グラフィック」の中心はイラストから写真へとシフトしていきます。小型カメラの登場により、造形的な視点が定着し、「見ること」の意味が根底から揺さぶられました。
この潮流を象徴するのが、グラフィック雑誌『アール・ゼ・メティエ・グラフィック(AMG)』と報道雑誌『ヴュ』です。『AMG』は印刷・写真・タイポグラフィなどあらゆる視覚表現を取り上げた知的探求の宝庫で、モダンデザインの国際的な動向をフランスに紹介し、過去の遺産から新たな価値を掘り起こしました。一方『ヴュ』は、フォトモンタージュやアートディレクションに優れた誌面で、ブラッサイ、ケルテス、カルティエ=ブレッソンらが活躍する舞台ともなりました。
報道と芸術の境界が曖昧になり、写真は現実を超える表現手段として定着していきます。1937年のパリ国際博覧会では、「芸術と技術」の共演が繰り広げられ、モダニズムがもたらす希望の輝きを示しました。
この展覧会「目と知の冒険へ」は、20世紀フランスの息遣いを紙媒体のグラフィックを通じて体感できる点にあります。どの雑誌や本も、一枚のページに当時のモダンが凝縮されており、まるでタイムカプセルのようです。
ファインアートが美術館で鑑賞される「一点もの」の芸術であるのに対し、本展で紹介されるグラフィックは雑誌や書籍といった複製媒体を通じ、時代の空気や美意識を広く社会に届けた「生活の中の芸術」です。装幀、挿絵、レイアウト、タイポグラフィなどが一体となり、見る者に視覚の驚きと知的刺激を与える点が最大の魅力です。
日常と芸術の境界を越えた、もうひとつのフランス美術がここにあります。印刷された紙の中に、時代の精神が息づいています。


コメント